kurakenyaのつれづれ日記

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暴力の解剖学

暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待

暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待


皆さん こんにちは.


友人の勧めから,エイドリアン・レインの「暴力の解剖学」を読んでみました.レインは著名な犯罪学者で,これまでいくつか彼の論文を読んできましたが,まとまった本を読んだのは初めてでした.また彼がオックスフォードで,ドーキンスから直接に利己的遺伝子論を学び,当然にそれを犯罪行為に応用している点も興味深いものでした.


例えば,PETやfMRIの画像解析からは,犯罪者の前頭前野の活性度が低い=計画的な活動ができにくい,とか,あるいは凶悪犯では眼窩前頭皮質がよく発達していない=感情の抑制ができにくい,などは,これまでにかなりスタイライズされた犯罪者の大脳機能です.(だからといって,こうした特徴が当人を「免責する」かどうかは難しいところであり,そうした自由意意志=責任論への疑問も提示されています.)


その他にも,DHAなどが認知機能の改善=犯罪の抑止に効果的,とか,認知療法も効果があることがあること,5HTTLPRのショート遺伝子を持つ人々=アジア人に多い,は幼児期の虐待に弱いという遺伝子x環境の交互作用,鉛・水銀・ヨウ素不足などの純粋環境要因についても実例も交えて詳説しています.


(なお,僕は(単に金がないという理由から)原著で読んだのですが,彼のイギリス教養人的な表現にはやや違和感が残りました.外国語話者としては,彼自信が思うところを,もっと直接的に書いてもらいたい! つまり反語疑問文について考えるのは面倒なのであります.)


さて,こうした犯罪行動学という学問が日本はまったく存在しない,またこうした学際的な研究者が日本では存在していないのはなぜなんでしょうか? どうしてfMRIの機械が世界で一番数多く設置されている日本にはこうした学問は存在せず,ヨーロッパやアメリカにしかないのでしょうか? この地の集団的排他性,好奇心の欠如,学問的セクショナリズムが反省させられます.


結論:犯罪と呼ばれる人間活動に対する,現時点での統合的な科学的探求の名著です.スバラシイのでオススメです.



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