kurakenyaのつれづれ日記

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「学力」の経済学

「学力」の経済学



皆さん こんにちは.

たまには経済学もいいかと思って,読んでみました.内容はつまり,エヴィデンス・ベースト・エデュケーション(EBE)の実例集で,よくまとまっていてとても読みやすいものです.


例えば,40人学級から35人学級にすると,国語の成績が若干上がるという日本の研究.あるいは,アメリカでの大規模な介入社会実験によると,中学以降は習熟度別の授業のほうが,「すべての」学生にとって学習効果が高まる.


(まあ,教科内容の効率的な学習だけが,学校制度の目的ではないので,それでも全体で同じ学習をすることにも意義があるかもしれません.こうした命題そのものもしかし,EBEによって確かめられる必要があります.あるいはみんなで学習すると,逆に思いやりのない人間になるという可能性もあるからです.本書でも,「平等教育」をすると,かえって他人への思いやりの無い子どもになる,という逆説が解説されています.なぜかって? それは論文の著者である阪大の大竹教授が指摘しているように,「みんなが同じポテンシャルをもっている」という前提を素直に信じると,うまく行っていない人生は努力不足のせいだということになるからかもしれないし,あるいはもっと単純なことで,そうしたウソの繰り返しに白けてしまうからかもしれません).


あと,子どもの才能を褒めると,勉強への努力をしなくなるが,努力を褒めると,もっと勉強するようになるとか,「勉強しなさい」と親が子どもに声掛けをしても,まったくムダか,あるいは反発する可能性があるため,時間をさいて,一緒に課題に取り組んでやる必要があるとか.こうした教育心理学的な知見は,けっこうまとまっているので,役に立つかもしれませんね.


こうした実験は非常に多く報告されてきていますが,日本では「実験」が倫理的な理由から許されてこなかったので,不毛な議論が蒸し返される傾向があると本書でも嘆きが.またハイリスク児童の幼少期の介入には,10%を超える社会投資リターンがあるというヘックマンの研究も紹介されています.


それから,この本は「〜の経済学」と銘打たれていますが,経済学という「金の計算」ではなくて,「実証的,科学的な議論」であるか,という点が重要です.政治学社会学は,つまり学者と呼ばれる人たちの言っている命題がただしいのかどうなのかを検証することができないことが問題なのです.

最後に興味深いのは,日本では文科省の全国標準学力調査を始め,ほとんどのすべての政府データが研究者に公開されていないことです.では誰が利用しているのか? 政府機関内部の「研究者」」という役人です.(税金でやっているのだから,基本的には個人特定ができないかぎりパブリックにすべきだと思うんですが,,,,)また政府の発表していることは,第3者が検証できないシステムになってしまっています.う〜ん,残念.本書で指摘されているように南アフリカだけでなく,多くの国の政府のデータはオープンドメインになっていることが多いのに.





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