- 作者: Jerry A. Coyne
- 出版社/メーカー: Oxford University Press
- 発売日: 2010/01/14
- メディア: ペーパーバック
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確か5年ほど前だったかに,Jerry Coyne のWhy Evolution is True を読んだ.彼はシカゴ大学の古生物学の教授なのだが,形態だけでなく,分子の進化についても紙幅が割かれていて,とてもいい本だった.
ところで,今たまたま知ったのだが,Coyneは,Nicholas Wade の近著 A troublesom inheritanceに対して,「科学とは言えないほど,行き過ぎた領域に踏み込んでしまっている」と評している.
えっ!! そうなの??
進化論をマジメに捉えるなら,ヒト集団に遺伝子頻度の差があって,それが過去の適応環境と関連していると考えるのは,自然だし,いやそう考えない方が,むしろ「非科学的」だ.
残念なことにアメリカの現状では,Coyneのような学者は,キリスト教創造論からは「進化などは存在しない」という攻撃を受けている.それに真っ向から反対したいために,「進化は存在した」という論陣を張りたい.もし進化理論がヒトの行動にも影響を与えてきていて,それは現在の社会的,経済な不平等な状況を説明してしまう,というのでは,進化論者としては都合が悪い.
これは,30年前に1975年にウィルソンが「社会生物学」を提唱した時に,左翼の平等主義者からやたらと攻撃されたので,その攻撃のバカらしさを理解した心理学者・人類学者たちは1980年代後半から「進化心理学」という呼称を使い始め,同時に「進化は人類集団が分岐した10万年前には終わっている」というご都合主義的なお題目を唱えることによって,主流化してきたことと軌を一にしている.
もっと,本当の知性の力で状況を見てみるべきだ.進化心理学という名称は僕も好きだが,人類の進化は終わっていないし,かえって過去10万年の間にますます高速化してきている.人口が増えて,突然変異の発生確率も上がっているし,おまけにライフスタイル自体も農業革命,文字の普及,文化の発生といった behavioral modernity を経て,急速に変化しているのだ.
コインの恐れも理解できるが,そういった考えには,どこかエリート主義が漂っている.
「オレたち選ばれた知性は事実を知っているが,それを知っても問題はない.けれども大衆に知らせると,差別や偏見を助長することになるだろう.ということで,やめておかなければならない」
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