- 作者: グレゴリー・クラーク,久保恵美子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/04/23
- メディア: 単行本
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ピンカーのbetter angels はとにかく、あまりの大著であり、その問題意識の鋭さ、広さ、援用資料の豊富さ、正確さ、そういったすべてに僕は完全に精神的に打ちのめされてしまった。自分がこれから何か考えるべきことなどあるのだろうか?というような絶望感に近い感慨。
ともかくも、これから時折、彼が著作で主張している内容をブログに書こうと思っているが、とにかくあまりに多くて、整理もできない。
さて今日ひとつ思い出したのは、ピンカーが、クラークの「10万年の人類史」の中で産業革命の理由を理由を批評しているところ。クラークは、イギリスでは中世から、豊かなビジネスマンがより多くの子供を残し、その結果、中産階級の「勤勉のエトス」がイギリスに広まり、産業革命がおこったのだという。
ピンカーは、クラークの記述では、エトスの伝播が遺伝的な変化なのか、あるいは文化の伝播によるものなのかがはっきり記されていないと指摘する。そして、クラークの資料では中国や日本では上流階級と下層階級が同じほどの子供を残していたというが、これを否定する。つまり、他の国でも同じように、上流階級は常により多くの子供を残していたはずだとして(Laura Betzigの研究など)、イギリスだけが産業革命に適した文化となったとのは遺伝的ではありえないという。
強調するまでもないが、ヨーロッパ中世から現代にいたるまでの殺人率の10分の一への低下や、日本の江戸時代から現代にいたる文化的な変化が遺伝的なものだと考えるのは、ほとんどあり得ない。ピンカーが指摘するように、明らかに、文化、常識の変化が圧倒的に重要だ。
20世紀のIQ研究を見ると、イギリス市民の知能が抜きんでているようでもない。広く、北西ヨーロッパは同じ程度の平均的な知性であるようだ。また勉学のエトスは少なくとも、中国では圧倒的に広がっていたはずだし、知能もむしろイギリスより高い。ところが、ではなぜ、イギリスなどの西ヨーロッパで啓蒙思想が、科学が発達していったのか? やはり5HTT S/Lか???
このテーマについては、もう少し自分でも、いろいろと確かめてみたい。