- 作者: 蔵研也
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2016/10/25
- メディア: 単行本
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みなさん,こんにちは.
さて第1講義は,分業の利益です.当然 アダム・スミスのピン工場の話を引用しています.産業革命の以前には,生産性の向上は科学技術を進歩させるというイノベーション型ではないので,会社や社会レベルでの生産分業と,あとは貿易での分業+賦存資源の違いを利用した分業になります.
さてオランダの有名な経済史家であるAngus Maddisonは最近なくなりましたが,彼のプロジェクトは今も続いていて,サイトが更新されています.
http://www.ggdc.net/maddison/maddison-project/home.htm
この研究を見ると,たしかにローマ時代は分業が進んでいたためにイタリアがもっとも豊かで,その後15世紀は地中海貿易のイタリア,さらに17世紀は世界に東インド会社をつくったオランダへと豊かな社会が変化していることがわかります.
その後はイギリスとアメリカで産業革命が起こり,貿易よりも産業が重要になるのですが,それにしても貿易が人びとの生活を豊かにするのは,別にこうした歴史を見なくても明らかです.
(ちなみに生前のマディソンは,ケネス・ポメランツが『大分岐』で示したような主題,つまり1700年以前の世界(ヨーロッパ,アジア,その他)ではほとんど生活の水準に差はなかったという主張に真っ向から反対の論文を書いています.まあ,これはこれからもっと議論が進んでほしい点ですが,ともかく近代の産業革命以降ほどの生活の圧倒的な差が存在してなかったのは事実でしょう.)
人間というのは,よほどよそ者嫌いなものであって,それは論理や経験というよりも,戦争を繰り返してきた直感からくるわけです.ともかくも,自由貿易による分業というのは,政治的にはとても難しいものです.
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