- 作者: 蔵研也
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2016/10/25
- メディア: 単行本
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みなさん,こんにちは.
11月1日の段階で,すでにハロウィーンの飾りが一斉に撤去されると同時に,スターバックスではもうクリスマス・ソングが流れています.こういうのを過剰なcommercialism , consumerismというのでしょうか.あまり気になりませんが,あるいはある種の人たちは「やり過ぎ」という風に感じるのでしょう.
さて分業,国際貿易と来て,3講は技術革新になります. 現代社会がなぜ中世よりも豊かなのかといえば,つまりは技術が異なるからだということになるでしょう.産業革命やイノベーションについては色んな角度から,いろいろなことが言えると思います.ここでは,現存の有名な歴史家であるケネス・ポメランツの『大分岐』について.
なぜイギリスで産業革命が始まったのか? という究極の問いについては,多くの答えがあるのでしょうが,最近の話題の一つは,ポメランツによる「二つの偶然説」です.
1. イギリスには広大な植民地があって,それが機械化によって生産性の上がった繊維産業の販売先になった.植民地がなかったフランスやオランダでは,同じ規模の技術革新の費用がペイしなかったために,そうしたイノベーションが起こる余地がなかった.
2. イギリスでは地表近くに石炭があり,掘り出すのに労力がほとんど必要なかった.これが石炭の利用による蒸気機関を生み出すインセンティブになり,他国に先駆けてコークス利用の製鉄産業が勃興した
というような説明です.まあ,なるほど,そうかもしれないという理由です.これは伝統的な歴史学に基づく仮説であると言えます.
- 作者: K・ポメランツ,川北稔
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
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僕が最近読んだ中でもっとありそうだと考えているのは,グレゴリー・クラークの『10万年の世界経済史』です.こっちは偶然ではなく,12世紀から500年間に渡って,イギリス人はコンスタントに遺伝的に変化=進化して,より資本主義的に適合的な長期の時間選好,高い知性などが集団に広まったというものです.
こっちのほうはpolitically incorrectですが,そうしたことがあっても自然主義的には不思議ではないということになるでしょうか.
- 作者: グレゴリー・クラーク,久保恵美子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
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さて,どういう理由からイギリスで産業革命が始まったのかはさておき,最近僕が感じたことを一つ.
戦後から1990年代までのイギリス経済はおそらく大停滞期にあって,僕の印象ではイギリスの産業に特に良い印象はありませんでした.ある時(確か1990年くらい),アメリカで外国通の友人が,「あんな中古品しかない,ボロい国」というようにイギリスのことをけなしていました.当時,たしかにイギリスの産業や生活水準というのは,あまりパッとしないイメージでした.
しかし21世気に入ってからは,ダイソンやジャガー・ランドローバーなどイギリスの工業が再び戻ってきたのを感じます.実際にイギリスの一人あたり所得は42000ドルにまで急速に増加してきていて,これはフランスと同じで,アメリカの50000ドルよりもわずかに低いだけです.ちなみにグーグル先生によると,日本は38000ドル,香港は55000ドルくらい.
英語が有利だということを差し引いても,金融業だけでなく,工業生産などが盛り返してきているのは間違いありません.イギリスは「大いなる没落」から脱出しつつあるのでしょう.国家の栄枯盛衰は,実に興味深いものです.
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