kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

書評「アニマル・スピリット」

この著作は情報の非対称性の問題を指摘したアカーロフと、経済変動がファンダメンタルズの変化よりも遥かに大きな規模で起こっているという実証分析をしたシラーという、二人の一流の経済学者による共著である。

内容としては、安心感、公平感、物語性、貨幣錯覚、などといった、現在の主流派の(合理的)経済学では否定されがちな論点を取り扱っている。通常、マクロ経済学者の仮定する、合理的な人間像からなるモデルでは取り扱いが難しいために、これらの純心理的な要素はまったく取り入れらていない。著者らは、しかし、ケインズが直感的に記述しているように、これらの「非合理的」は要素は経済の変動に大きな影響を与えていることを、多くの逸話を引用しつつ、指摘する。

著者たちの意見はしかし、多様な心理的な要素が働いていることを指摘するのみで、それらはどの程度重要なのか、さらにそれらを制御(それが可能だとしても)するために、どういった政策を、どのような基準において採用するべきかをほとんど示唆していない。

また、ややテクニカルなことを指摘するなら、多くの新しい行動経済学、行動マクロ経済学の研究もあまり引用していない。これは著者たちの経済学会における立ち位置を考えると、だいぶ不可思議なことだといえるだろう。


結果、20年以上前から続く、まったく同じような曖昧な話の蒸し返しになってしまっている。結論として、これは、功なり名をなした著名な経済学者の描いた凡庸な著作というのが私の結論であり、この本を読むのであれば、もう少し別の本、例えば「実践、行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択」などを読むべきである。