kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

インフレについての知人への手紙

以下は小生がインフレ論について思っていることを知人にあてた手紙である。

????????????????????????????????

XX先生


たびたびお騒がせして恐縮です。


先日のメールにて、インフレ論者、(あるいはリフレ論者とも呼ばれていますが、)
が、あたかも銀行エコノミストばかりであり、経済学者がいないように書きましたが、
この点、気になっていましたので、以下もう少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか。


1、おそらくインフレによって経済活動が活性化するという考えを最も強力に普及させたのは、
ケインズ自身であり、その考えは戦後のケインズ学派に引き継がれてきたといえるでしょう。


彼らの考えは、いわゆる「貨幣錯覚」に基づくものであり、
「インフレは、自分の給料が上がったように一般人に錯覚を与えるため、
人々の購買活動を刺激し、つまり経済の生産活動を活性化させる」というものです。


1960年代までの実証分析でも、
インフレ率と経済生産が正の相関をもつことが示され(フィリップス曲線)、
これは失業率を下げるにはインフレ政策をとるべきだとされてきました。



2、これに対しては、こういった貨幣錯覚は人々がインフレの存在を認識すると
なくなってしまうにちがいないというフリードマンなどの指摘がなされ、
それは70年代のスタグフレーションの進行によって多くの人が納得したものです。


この命題は、新古典派経済学者のように、個人行動の合理性を高く見積もる学者ほど
より強く信じるものだといえるでしょう。


ハイエクもまた、インフレは貨幣価値の伝達ノイズになってしまい、
かえって有害だと主張していました。


3、現在でもこの対立は続いていて、
民間エコノミストケインズ的な政策を重視するアカデミシャンはインフレを望ましいとする傾向を持ち、
ガチガチの人間行動の合理性を信じる新古典派学者は、インフレには悪効果しかないといいがちです。


4、最近の行動経済学などの実験では、確かに多くの人がインフレ時の貨幣錯覚をもつことが
確かめられています。
たとえば、インフレ時には名目的な賃金上昇があるために、労使協調が進みやすいことや、
名目賃金の上昇によって、幸福感が上がることなどです。


5、これらの現状を考えると、若いころからガチガチの合理主義者であった僕も、
僕自身は貨幣錯覚はあまりないが、
あるいはインフレにも人々の錯覚を通じて意味はあるのかな、
と、やや態度を軟化させているところです。


6、これに関連して、やや問題が錯綜するのは、
福祉国家のバラマキによる財政再建が困難であるという
民主主義の普遍的な事実です。


日本の1000兆円の債務は増税によって返済される可能性はほとんどないですから、
インフレ論者は、国債を一部分ずつ日銀券によって償還し、
同時にそれにもとなう緩やかなインフレによって、
国家的な債務を実質鉄的に減らしてゆくことが望ましいと考えているようです。


確かに、このまま日本の国家赤字が続き、物価水準が維持されるなら、
将来のどこかの時点で国債の利払いは不可能になり、
ハイパーインフレに突入するはずです。


とすると、緩やかなインフレというのは、
アルゼンチンやブラジルのようなハイパーインフレによる大きな経済混乱を避けるための
ソフトランディングの方法としては なるほど、それなりの意味がある可能性も高いとも思います。


とはいえ、このようなインフレ政策はつまり政府のやりたい放題をより長く維持するだけの、
目隠しだとも考えられるので、一概にいいとも、悪いともいいかねます。


7、という程度が現状だと認識しています。
インフレの望ましさについては、科学というよりもアートと呼ぶべきでしょうか。


僕の弱い意見としては、このままインフレを引き起こさない結果として、
最終的に政府の累積赤字の日銀引き受けによって突然のハイパーインフレが来ても、
それは民主主義政治のバラマキによるやむを得ないコストだと諦めている程度です。


蔵拝