- 作者: 蔵研也
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2016/10/25
- メディア: 単行本
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懇意の皆さん,こんにちは.
序章はですね,左からマルクス,ケインズ,フリードマン,ハイエクの4人を並べて,政府と市場による財の配分割合を表しました.
政府の割合,あるいは政治による強権的な配分割合は,テキトウですが,マルクス100%,ケインズ50−40%, フリードマン20−10%,ハイエク 〜10%というほどになるでしょうか.人の顔写真が載っているのは,何にしても,具体的で興味深いものです.
実際には,こうした直接的な政府による財の分配だけでなく,各種の規制による政府の介入もあり,あるいは公社・公団などのように,政府なのか,民間企業なのかわからない存在もあるので,数値的な曖昧さは残りますが,大まかな程度と方向性は間違いなく,こうした順番になるはずです.
少なくともマルクスや,その後継者たちが100%の政府による生産と分配を認めていたことは間違いありません.今 各国の共産党はどうなんでしょうか? ハッキリとはわからないのですが,おそらくは50%以上の,どこか80%程なのかと思います.なぜって,現在の欧米型の先進国政府は,GDPの40%ほどを直接・間接的に支配しているからです.これ以上の介入を望む人は,60〜80%というほどにはなるでしょう.
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いきなり余談ですが,この本を書く際にハイエク全集をどれだけか読み直しました.そこで,1970,80年代のハイエクは今よりもずっと多くの日本人経済学者に支持されていたことが,よく分かりました.おそらくその時代の経済学者(おそらくは戦前の教育を受けた世代)は実際に,戦時軍国主義を経験していて,「自由」というもののありがたみも,「不自由」の意味もよくわかっていたようです.
翻って,僕の世代以降は,民主主義的な言論の自由は当たり前で,むしろ面白みも有り難みもなく,つまらない主張になってしまったようです.戦後の世代の学者に対しては,訴求力がなくなってしまったということなのでしょう.
もう一つは,経済学の「制度化」の完成によって,ケインズ経済学は教科書の普及とともに,完全に世界の社会常識のスタンダードになったということだと思います.皆さん よくご存知のように吉川洋先生などは,ルーカス以降の新古典派によるケインズ主義の侵食を嘆いておられますが,それはあくまで学会のマクロモデルに限った話です.僕はマクロ経済学を教える際に,「公務員試験のための経済学」というような教科書を長年使っていますが,それを見ると,カリスマ講師の教える内容のほとんどすべてがケインズ経済学そのものであり,新古典派からの批判は取ってつけたようにわずかに載っているだけです.まあ,DSGEモデル自体が,常識的には難しすぎるというのは事実ですが,,,
というわけで,戦後の圧倒的な存在はケインズ主義であり,アベノミクスもしかり.あるいはヨーロッパ中央銀行やFRBの低金利政策も,つまりはケインズ主義の金融政策そのものです.
おそらくフリードマンは10%ほど,ハイエクは5%ほどを,国防・警察・司法という夜警国家の維持のために肯定していたのではないかと思います.とはいえ,彼ら自身が割合を明示しているわけではないので,この図は(僕も含めて)多くのリバタリアンの常識とでも呼ぶ程度のものです.当然ですが,ハイエクは無政府主義者ではなかったが,間違いなく,それに一番近い著名な経済学者だったといえるでしょう.
というわけで,序章ではこの4つの知の巨人による財の配分割合について少し説明してみました.
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