シルバー民主主義 - 高齢者優遇をどう克服するか (中公新書)
- 作者: 八代尚宏
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/05/18
- メディア: 新書
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- 作者: 原田泰
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/11/05
- メディア: 単行本
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皆さん こんにちは.
デフレはインフレの逆でしかないので,ガチガチの合理主義者にとってはほとんど同じようなものです.予期しないデフレは,借り手から貸し手への富の移転を伴いますが,それ以外は,デフレが予測されている限りは特段の問題はないはずです.
ところで,唯一興味深い話題としては,最近,八代尚宏さんや原田泰さんなどの市場重視系の経済学者が,デフレは若者を貧しくして,老人へと資源を移転させると批判していることです.確かに,
1.デフレは金融資産,特に単なるタンス預金や銀行預金の価値を高め,若者の賃金は相対的に下がります.
2.年金はデフレスライドするのが稀なので,現実的には,老人の年金は割増状態になってしまいます.
3.消費税は年令を問わずに富裕層の消費にかかりますが,その実施を遅らせるということは,つまり現在の富裕な高齢者から税を取るのをやめて,若年世代の未来に先送りして支払わせようとすることです.
こうしてデフレが続くことで,若者の賃金に比べた高齢者の資産は上がり,ただでさえシルバー民主主義の悪弊がひどいのに,さらにそれが悪くなるという主張なのです.
なるほど.デフレやインフレによって生じる,世代間の豊かさの相対的な変化については納得できる部分が多くあります.もちろん,老人が豊かになって何が悪い!と言う意見もありでしょうが,問題は年金制度が賦課方式であり,その負担は若者にのしかかっている政治制度にあります.
日本の有権者のマジョリティ=団塊の世代はすでに60代なので,若者はますます搾取されるでしょう.若者といっても,その祖父母(の年金)からサポートを受けられる人は良いのでしょうが,そうでない若者は悲惨です.
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なお,「インフレにしなければ景気は良くならない」とか断言している,市井の評論家サンがたくさんいるようですが,それは単純な誤りです.例えば,1880−1896年のアメリカの好景気は年率3%にも及ぶデフレとともに生じており,この期間にアメリカでは23%ものデフレが起こったことが知られています.
論理的に考えれば自明なことですが,デフレという状態が,生産性の向上=テクノロジーの発達と両立しないという理由などはないし,実際にデフレ下の好況は存在しました.(しかしこの時,西部の農民は借金の増価に苦しみ,東部の銀行家に大きな不満を持ったのは事実です.)評論家サンたちは,ただいつのもように無知で不勉強,直感と思い込みで放言しているだけです.
とはいえ,インフレによる貨幣錯覚が人びとにエクストラの幸福感・満足感を与えるらしいことは,今や否定できなさそうです.その程度については,もっと経済学者が真面目に推定して,議論しあうべきでしょう.
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