kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

通貨学派 vs 銀行学派

さて,第8章.


アンナ・シュワルツによると,19世紀イギリスの経済学会では,通貨学派と銀行学派が対立していました.


通貨学派は,通貨政策をルールに従って遂行すべきだと考えました.だから民間銀行が銀行券を乱発して,経済を不安定にしていると批判していました.(こうした主張に影響を受けて,イギリスの貴族院議員であるピールによって,銀行券を発行するには,その裏付けとなる黄金が必要であるとする「ピール銀行条例」が1844年に可決されました.しかし,これは常に施行が延期されて,今も廃案=休眠案のままです.)


これに対して,銀行学派は,「銀行券の発行は自由な裁量に任せれば,レッセ=フェールでうまくいくし,インフレは経済を活性化させるので,じゃんじゃん印刷してもいいんだよ」と主張していました.これは現在のケインズ主義金融政策の走りでもあります.(インフレ期待がどうであるか? ということはあまり難しいので,ここでは扱えませんが,常に「予想を越えた」通貨の増大で経済が活性化されるのは,どの教科書にも書いてあります.)


もし民間銀行が,大量に顧客の預金を貸し出して,準備金がないのであれば,取り付け騒ぎ panic が起きます.これは理論の問題ではなくて,銀行に預けたお金がなくなるというのであれば,信用不安になれば,皆が預金をおろしに行くでしょう.しかし,皆が行けば,そこにはお金(流動性)はありません.つまり,逆説的に信用不安自体が,自己実現的なパニックを生み出します.実際にこうしたパニックは,イギリスでもアメリカでも起こりました.(20世紀に入っても,日本では1927年に起こっていますし,最近でもアルゼンチンで起こっています.)


そこで学術論争よりも現実が先行する形で,イングランド中央銀行が設立されて,「最後の貸し手」が生まれました.これで,民間銀行は銀行危機でも救済されて,問題はなくなります.この制度はアメリカでも連邦準備理事会が設立されて,20世紀を通じて,全世界に普遍的なものとして拡がりました.


しかし,中央銀行が(国債を引き受けたりして)マネタリーベースを増加させたり,あるいは民間銀行が預金を低金利で貸し出せば,その分インフレが起きます.論理的に考えれば,銀行券と信用供与は同じ効果を持っていると見抜いたのが,ミーゼスです.


digression
(アメリカではミーゼスはあまり評価されていないのですが,オーストリア学派は数年以上におよぶ,多層的な資本概念を仮定します.反対に,ジョン・クラーク・ベイツやフランク・ナイト,ジョージ・スティグラーなどのシカゴ学派から現代のルーカスモデルに至るまで,資本は1種類で,それは1期で消費財になるという,アメリカ経済学界の仮定とは大きく異なります.


そうした違いから生じる影響は,デ・ソトやギャリソンが書いているように,単なる抽象的な論理にとどまりません.例えばGDP統計は,ケインズ主義の影響をうけて中間生産物を除いて計算しています.しかし,そうした計算を行うことで,好不況の波の影響が小さく計測されてしまうのです.なぜなら,経済変動で最も大きく動くのは,消費財産業ではなくて,中間生産物=資本財産業だからです.)  end


ということで,ミーゼスは1912年から1940年にかけて,通貨学派を発展させることで,ついに銀行券の発行と,信用創造はまったく同じ性質をもつ(彼の命名する信認媒体である)ことを理論化しました.そして,部分準備銀行を認めることは,事実上,銀行券を発行する権利を与えることと同じであり,それらから生じるインフレを防ぐためには,100パーセント準備制度の民間銀行以外にはないと喝破します.


さて,ロスバードなどオーストリア学派の本流は,この100パーセント準備制度による自由銀行制度を提唱します.この流れでデ・ソトも100パーセント準備の自由銀行制度を提案をしています.もっと具体的には次の最終 第9章で概説することにしましょう.



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