- 作者: スティーヴンワインバーグ,大栗博司,Steven Weinberg,赤根洋子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/05/14
- メディア: 単行本
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こんにちは.
ミレトスの自然哲学,デモクリトスの原子論などですが,ワインバーグによると,彼らは現代の自然科学者というよりも,むしろ詩人と呼ぶべき人びとであったと言います.(29ページから)
「そうは行っても,アルカイック期や古典期のギリシャ科学の現代的側面を強調し過ぎるべきではないと私は考える.現代科学のある重要な特徴が,これまで言及してきたタレスからプラトンに至る思想家にはほぼ完璧に欠けている.彼らのうちの誰も,自分の理論を実際に確かめようとしていないのである.誰も(おそらくゼノンは別として),自分の理論の正しさを論証することさえ試みていない.彼らの著作を読んでいると,絶えず,「だから,どうやってそれを知ったのか?」という問いが浮かんでくる.この疑問は他の思想家と同様にデモクリトスにも当てはまる.現存する彼の著作の断片には,物質が本当にアトムでできていることを証明しようとした跡はどこにも見られない.」
これはこれで正しい意見だと思います.
しかし,それでもやはりギリシャ哲学だけが「万物の元素」などというものについて「無意味に」思索していることは重要でしょう.なぜなら,そうした思索自体がまったく経験的・実証的でもなく,さらに何の応用可能性もないのに,そうした記述が賢人の言葉として残っているのです.ということは,そうした疑問がそれなり多くの知的な階層に共有されていたということを意味しているでしょう.
プラトンは.世界の秩序などを道徳的な視点から捉えていますが,それは当時の人間の限界です.それでも,別段に世界のどこということはなくて,他の地域では自然の摂理についての疑問があまり重視されていないということこそが重要なのです.
なぜ自然科学がヨーロッパで発展したのかの理由には,そうしたメンタリティが実は昔から異なっていた可能性が示唆されます.
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