kurakenyaのつれづれ日記

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通貨,銀行信用,経済循環 9章

皆さん こんにちは.

ついに「通貨,銀行信用,経済循環」の9章が終わりました.


9章は,オーストリア学派の従来からの主張である金本位制度の提言です.現在では,金本位を採る国はないはずで,1970年代のニクソン・ショック以降,金と通貨は切り離されています.僕の感覚でも,通貨を金本位にするというのは大時代的な気がしていました.


その理由は,サムエルソンの教科書にも書いてあったように,「金庫に入れておくための金を掘り出すために,膨大な資源を投入するなんてムダである」ためです.確か,僕はこの説明を18歳の時点で呼んだ時,「なるほど,その通りだ!」と感じたのを覚えています.なお,サムエルソンのこうした説明は,それ以前にケインズが「金属そのものに価値を見出すなどというのはbarbarianのすること」と書いたことから強い影響を受けているようです.


さて,これに反対するのがミーゼス以降のオーストリア学派で,金は自然発生した通貨制度であり,その有用性・普遍性を強調します.


これを受けて,ロスバードは金本位制を養護していますが,例えばハイエクなんかは最終的には「コモディティ・バスケット」に裏付けられた通貨でも良いとか書いています.デソトの意見はロスバードに続く,オーストリア学派の主流派の意見です.


いわく,金に裏付けられた通貨(金本位制度)すれば,これによって中央銀行と政府によるインフレ政策を防ぐことができます.同時に,銀行には預金とは,預金者が預けた金であって,預かり手である銀行が勝手に外部にローンとして融資できないこととします(100パーセント準備制度).なぜなら,そうした活動はそもそも(日本刑法では)横領であり,すべての国で窃盗,あるいは横領罪を構成するからです.世界的に,なぜ銀行にだけそうしたことが許されているのかといえば,単に政府が銀行を保護し,見返りに国債を買ってもらうようになったからです.


こうした通貨・銀行制度を採ることで,銀行ローンによって始まり過熱するバブルは生じなくなり,生産性の向上による緩やかな安定的な経済成長が実現します.金本位制度は,政府の通貨の増刷によるインフレ税徴収の可能性をなくすので,政治的な駆け引きなどの取引費用がなくなり,社会は全体としてより生産的になります.


ネガな部分は,「金を掘るためにはるかに巨大な資源が投入されるだろうこと」です.しかし,晩年のフリードマン金本位制度を肯定するようになったように,金融政策という政治力を巡って,常に無意味な権力闘争やロビーイングが繰り返されています.そうした活動は本質的にゼロサムゲームなので,そうした膨大な政治活動の社会費用を考えれば,金の採掘などおそらく小さなものです.


またフリードマンなどのマネタリストは,大恐慌の際には大規模な金融収縮が発生したために,混乱が起こったとしています.しかし,金本位制度と100パーセントの銀行準備制度をとるなら,そもそもマネタリーベースから派生する通貨は存在しないため,通貨が収縮することはあり得ません.


つまり,大規模なバブルが発生するような好景気もなければ,同時にそれが弾けて失業が大発生するような不況も生じないということなのです.


最後に,合理主義者を自称してきた僕自身も,この著作によって「金」というのは確かに政府の金融政策から逃れる方法としては,とても良いものであることを理解できました.金はそれ自体が銀や,銅,あるいはプラチナと違うわけではないと思いますが,おそらくゲーム理論でいうところの,Focal strategyになっているのです.なぜなら,金の価値があることは(仮に何の工業的実用性も持たなかったとしても,)これまでの歴史的な経緯や,あるいは人間の審美的な直感によって自明だからです.


ある意味で,金本位制度は確かに原始的であり,合理的ではない部分があります.しかし,現実には「自由があると,セイレーンに引き寄せられるために,事前に自分を縛らせておく」という話と共通します.つまりはデジタル情報でしかない不換紙幣制度は確かに文明的だとはいえますが,無意味な政治活動と,人為的な経済変動を生み出します.それをなくすためには,結局,ある意味で自分の体を縛る=金本位制度をとるほうが長期の利益にかなっているということです.


後日,もう少し,この金本位制度+100パーセント準備の長所について述べたいと思います.




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