kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

「自生的秩序」と金本位制

さて,久しぶりに金本位制度について.


1. 結局,金本位制度の究極的な利点は,政府による輪転機の稼動や,あるいは日銀のコンピュータの数値操作によって通貨を自由に創り出す能力を奪うことにあります.これはインフレを抑えられるだけではなくて,恐慌の発生時に典型的に観察される信用収縮の可能性も断つことができるという点が,素晴らしいのです.


2. 銀行が「預かった黄金」を使って信用創造ができないとするなら,そもそもインフレは起きないし,現在のような過剰な融資活動ができないために,バブルが発生することはありません.とすると,バブルもないし,恐慌も発生しない.地震などを除けば,ゆっくりとした持続的な生産性の向上によって,デフレ経済が実現して人々は次第に実質所得が増加することに慣れていくでしょう.


3. こうしたアイデアは,すでにミーゼスが「ヒューマン・アクション」で提示していますが,これまで僕を含めて,こうした銀行規制のあり方を体系的に学んでいなかったというのはどういうことでしょう?? 少なくとも,メインストリームの経済学者は,銀行を100パーセント準備制度にするという考えを,ほとんどまったく考えたことがないことは間違いありません.


4. また,メインストリームの経済学では,好不況の波は外生的なショックであると考えますが,それがどういった性質を持つのか?については,実証的に提示できていません.Real Business Cycleなんかだと,本当に生産性に大きな変動が生じているのだ,と考えますが,さてそうした生産性のショックとはどういったものなのか? ウーン,一見してよくわからないようなショックがあるというのは不可能ではないかも知れないですが,説得力は内容に感じます.

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さて,また別の話題.


金は確かにハイエクの自生的秩序であり,もっと昔からメンガーなどはそうした自然発生的な社会制度こそが重要なのだ,と主張しました.この自生的秩序という概念に果たして何が含まれるのか?という問いは,あまりはっきりしていません.例えば,奴隷制度は18世紀までの「自生的秩序」だったわけで,だから許されるのか? あるいは男女の役割分担は,この前までの「自生的秩序」であったわけで,だから許されるのか? さらには,結婚は男女がするもので,同性でするものではないというのもこれまでの「自生的秩序」であるから,守るべきなのか?


オーストリア学派金本位制度は一つの有力なアイデアではあるが,例えば Bitcoinのような電子通貨でも良いはずで,その場合には,金を掘り出すエネルギーが節約できるはずです.もちろん,ビットコインは現状,金ほどの通用性を持っていないし,「自生的な制度」でもありません.しかし,サイバースペースがもっと無線ネットワークに普及すれば,携帯電話に入れるのも技術的にムズカシイものではないため,21世紀のどこかで「自生的な秩序」になるのではないかとも思われます.


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さて今日の最後の話題.


こうした社会制度改革は考えるのは楽しいのですが,現実はギリシャを見ても明らかなように,誰もがより多くを政府に望み,しかし負担はしたくありません.Euro縛りがなければ,チプラスさんは輪転機を回しまくったでしょう.


結局,民主主義とは主権者が望むもの以上の制度を採用することはできません.財政政策,金融政策,そうしたケインズ的な教義は民主主義と親和的です.なぜなら,政府が何か素晴らしいことをすることができると約束する宗教だからです.しかし,オーストリア学派の経済学は,政府は何もできないのだから,政治にムダなエネルギーを使うのは止めて,もっと生産的な活動にエネルギーを使おうよ,と言います.


この命題に主権者が納得できるのか? 僕には無理なような気がします.これは明らかな敗北主義であり,望ましいものではありませんが,僕は経済学の学界の潮流としても,あるいは授業を長年教えていてもそう感じてしまします.


生物には,植物と動物がいて,植物が生産を行い,動物はその生産物を食べて生きています.これは「自生的秩序」というよりも,「自然の摂理」というレベルのことです.生産活動を行う一般人と,その成果を税として収奪する政府の存在は,ロスバードの意見とは裏腹に人々の支持を得ており,つまりそれこそが「自生的な秩序」なのではなかと危惧されます.



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