kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

炭水化物は体に悪い


夏井さんは,「傷は乾かさないで治すべきだ」という湿潤療法で有名な医者です.こうした大きな常識の変化には,まったく驚きです.この人の枠を超越した活躍は,それだけでも大いに意義があると感じてきました.


さて,この本では糖質制限食の利点が列挙されています.血糖値が高ければ,血管が糖焼けして,動脈硬化を起こすでしょう.だからこそ,血糖値の急激な上昇を抑えるべきだ(グリセミックスインデックス),=繊維質を取りましょう,といわれるのです.また ほとんどの肥満というのは糖質のとりすぎであって,現代人は 本来の必要性をこえて炭水化物を食べているわけです.ということで,ノンカーボというのは,健康法としては相当に納得できます.基本的に正しいと思います.そういえば,「寄生虫」の藤田さんも同じことをいってたよなあ.(最後に藤田さんの本も載せときました.)


農耕が始まってから1万年しか経っていないのですから,いくらこの間に,アミラーゼ遺伝子を含む変化が起こったとしても,おそらくは植物,昆虫,肉類を増やしたほうが,自然なのでしょう.


(あえていうなら,タンパク質の取り過ぎは,腎臓に負担をかける可能性もあるか,という程度です.あと,細かいことですが,パンダが急に竹を食べだしたというのは,僕の知識からすると,トンデモに近くて,何世代にもわたって次第にタケ食に適応していったと考えるほうが,はるかに蓋然的でしょう.)


さて,ベジタリアン糖質制限をするなら,葉物野菜,豆類が食事の中心になるのだろうと思います.しかし,これは難易度がさらに上るし,普通食からの乖離もハンパないことになります.また誰かこれについて書いている人がいたら また報告したいと思います.

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この本の健康法ガイドライン的な主張には,ほとんど基本的に完全に賛成していること,あと僕は著者の枠をこえた思考法や,すばらしい人格を尊敬する大ファンであることを前提として,以下,誤りだと思う点をあえて記しましょう.そのほうが,皆さんも知的に楽しめると思います.


1.「穀物食を中心にする人間活動は,すでに行き詰っていて,永続可能なものではない」という主張も2重に誤っています.一つは,現在でも各種のGMOの普及によって,乾燥にも強い品種が作られており,単位面積当たりの収量はむしろ増え続けているということ.


仮にアメリカのオガララ帯水層が干上がったとしても,おそらく地球の別の場所で別の形で穀物生産が続くことを意味しています.例えば,中国のダイズ輸入量は日本の20倍にも激増してきましたが,ブラジルのセラード開発のおかげでダイズ価格はそれほどには上がっていません.


2.また,現代人のすべてが糖質以外で生きることは,おそらくカロリーベースで考えて不可能です.穀類の単位面積当たりのカロリー生産効率は,著者も認めているように圧倒的に高い.だからこそ,人間の人口が70億人に増大したのです.葉物野菜と根菜,肉類を人類が食べて生きるとしても,トリ肉,ブタ肉,あるいはアメリカでの何割かの牛肉生産には穀類が,飼料として必要です.とすれば,穀物は作り続ける必要があるはずです.


(あるいは著者の言うような,牛のような効率的な腸内細菌叢を作り出すことが人間に可能だということなら,あるいははるかに少ないカロリー消費でも生きることができるのかもしれません.しかし,人類学的な知見,フィールドワークからの報告を見ると,狩猟採集民でも2000キロカロリー程度は最低限度必要だと思われます.)


つまり穀物価格は,カロリーベースで見て野菜や肉の価格よりもはるかに安いので,つまり健康なノンカーボ食は価格が高くなります.これは先進国では可能だと思いますが,1日1ドルで生きている人たちには不可能なのです.


とすると,(僕は信じていませんが,)もし世界の穀物生産が行き詰まったのなら,大規模な食糧危機が生じて,多くの途上国の人びとが飢えることになるはずです.各国で政治危機が起こり,あるいは大規模な戦争,内戦,疫病が起こり,人類の数は激減せざるを得ません.


こうしたことは,ダイヤモンドの「文明崩壊」に詳しく描かれているように,マヤ文明イースター島でおこったシナリオです.現在の文明は,世界的な市場の一体化と科学技術の発展によって,過去のあらゆる文明よりもはるかに強靭だと思います.しかし,あるいは,そういうパターンなる可能性もあるのかもしれません.


まあ,こうした一般均衡的な視点は,おそらくレスター・ブラウン寄りの知識人にはオモシロくない,興味がわかない話なのでしょう.

50歳からは「炭水化物」をやめなさい。 ~「病まない」、「ボケない」、「老いない」体をつくる腸健康法~

50歳からは「炭水化物」をやめなさい。 ~「病まない」、「ボケない」、「老いない」体をつくる腸健康法~

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