kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

独裁<民主<無政府?

独裁者のためのハンドブック (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

独裁者のためのハンドブック (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)


懇意の友人が薦めてくれたので,最近やや時間がヒッパク気味なのだが,読んでみることにした.さて この本を読むまでは,「政治学にマトモな人なんてなかなかいないな〜〜,政治歴史でしかないな」とかバカにしていたが,実はバカなのは自分だった.(でも日本の政治学者はよくわからない??)


さて著者らの注腸によれば,リーダーとして権力を握るには,サポートしてくれる支持者への見返りが不可欠だ.それは独裁政治でも,民主主義政治でも変わらない.ただ,独裁政治ではサポートグループの数が2ケタ程度なのに対して,民主主義では,最低でも4ケタ,5ケタにはなるため,どうしても目的関数が変わってしまうというのが,著者らの提唱する理論だ.


僕は彼らの原著であるAmerican Political Science Reviewなどの論文を読んでいないが,察するところ,べき乗法則やゲーム理論を使って,こうした理論を検証しているはずだ.現代の社会科学としては,マトモ極まりない方法だ.


この理論によって,なぜ民主主義国家は戦争をしにくいのか=有権者集団を殺してしまう可能性が高まり,コストが高いため. あるいは,なぜ援助が独裁政治を継続させるのか=近くの支持者への利益供与が可能になるため,など多くの説明が可能になる.


僕がオモシロイと思ったのは,「資源のワナ」の説明だ.「途上国の中でも,ザイールやミャンマーのように資源に恵まれている国ほど,独裁に陥りがちだ」というものがある.いつも授業でも話しているが,これはつまり,独裁者が資源を握れば,独裁を維持するための資金になるということなのだ.資源はナマケルこともないし,掘ればそれだけの資金になって,自分の支持基盤を強固にできる.対して,資源のない国は,人的な資源を高めることでしか豊かになれないから,そのことを理解しているリーダーは独裁を維持する強いインセンティブを持たない,ということになるだろうか.


もちろん,北朝鮮や中国のように例外はたくさんあるだろうが,まあ,統計的には成り立つんじゃないのだろうか.


ネガティブ面については,2つあって,まず第一は,結局政治活動というものが見返りを求めて権力を握るためだというのなら,なぜ著者たちは民主主義を超えて,さらに有権者や権力の存在しない無政府主義を「論理的に」信奉しないのか? (もちろん,常識というやつが,彼らの目を曇らせているのだろう.)


もう一つは,そもそもなぜ西洋人が民主主義などという,奇妙で独特の制度が「価値がある」と信じたのか? という謎が全く説明されていないこと. 中国の指導者たちは,現在でさえも そうした思想は西洋人の個人主義の堕落だと主張している.おまけに,どうやらヨーロッパ人以外では,建前は豊かで強力なヨーロッパ諸国におもねっているものの,あまり心の底から,「自由主義,民主主義に価値がある」などとは思っていないらしい (プーチンを見てみようじゃないか!! あるいは国家公務員機密防衛を声高に叫ぶ愛国主義者を見てもらいたい)


とはいえ,オモシロイ本ではある.オススメです.



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