kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

A troublesome inheritance

A Troublesome Inheritance: Genes, Race and Human History

A Troublesome Inheritance: Genes, Race and Human History


このところ,何人かの友人から多くの本を勧められて,読みきれない.さて,この本は有名なサイエンス・ライターであるイギリスのニコラス・ウェイドの最新作です.


こういった科学についての本を書くには,結局 英語で教育を受けるしかないのが残念なことだとリドリーについても,ウェイドについても感じてしまいます.


さて,この本では,「人間の遺伝子の進化は,進化心理学で20年前に言われていたように,5万年前で終わったんではなくて,むしろ,それから加速してきている」という,報告が扱われている.当然に,クラークのいうように,イギリス社会の非暴力化,時間選好の変化,などのように安定した文化をもつ社会が1000年も続けば,集団の遺伝子プールにも大きな変化が起きるだろうことが強調されている.しかも,中国の科挙の歴史というのが,つまりは「昔の偉人がどういったこういったという無意味な記憶力はいいが,体制に挑戦しない好奇心のない遺伝子を選択的に増強してきた」という例を引いて,考察している.


良い点は,グールドその他のご都合主義的平等主義者の体のよい主張は,完全に誤りであることを,はっきりと認めている点.そして,社会科学者や歴史学者は今後はもっと社会制度や文化の歴史的変化の遺伝子的基礎づけに注意を払う必要があるだろうことを指摘している点.(まあ,どっちも僕が生きているうちにはありそうにもないし,さらに最近,僕は社会科学者や歴史学者の能力はそもそも政治と同じで,言葉の魔術で人を惑わすことにあり,真実にはあまり興味が無いのだろうと思っているが..)


悪い点は,あえていうなら,中途半端な主張が多すぎること.結局,MAO-A遺伝子の暴力性が肯定され,アフリカ人がユーラシア人よりも多いなら,素直に暴力性・犯罪性向を反映していると考えるべきだろう.ところが,ここまで論点を進めながら,ウェイドは人気作家としてやむを得ないのだろうが,「他にも暴力性の遺伝子が存在していることは明らかであり,何も結論できない」という.ありえないだろ!


ある遺伝子が例えば,背の高さと関係していて,それがアフリカ人に多く見られるなら,他の背の高さを決める多くの遺伝子も相関的により高くなるだろうと予測される.何も言えないとかではなくて,他に重要な反対論拠がないなら,そう予測されることは科学的に自明なのに.


また別の例では,「知能の遺伝子はあまりにも数が多く,大きな影響をもつ遺伝子がない以上は,何も言えない」という.がこれも誤りだ.すでにCOMTだけでなく,多くの知能に関連すると考えられている遺伝子は特定されているし,それをウェイドが知らないはずがない.かねてからPlominなどが指摘しているように,確かに一つ一つは表現型に小さな影響しか与えていない.しかし,集団としての遺伝子頻度と知能の間には,多くの遺伝子が特定されている.本当に興味がある人には一応,


http://drjamesthompson.blogspot.jp/2014/05/lci14-davide-piffer-human-polygenic.html


をはじめの一歩としてオススメします.


まあしかし,そういったことは一般書には求め過ぎなのだろう.やはり,自分の研究と違った分野について,(僕だったら医学とかか?)ザックリと理解するためにサイエンス・ライターという職業があるわけで,もし専門家であるなら,逆に多くのことについては書けないことになってしまう.結局,トレードオフがあるという程度のことなのだろう.


次回はクラークについての最新作,「The son also rises」についてでも書こうかと思っています.(小学1年生じゃあるまいし,「だ・である」と「です・ます」の混在ヤメロ -> オレ)



_