kurakenyaのつれづれ日記

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Flynn effect

What Is Intelligence?: Beyond the Flynn Effect

What Is Intelligence?: Beyond the Flynn Effect



James Flynn はIQが10年毎に3程度上がっているという報告をしたことで有名な哲学者・心理学者である。本書では、どうしてそういうことが起こってきたのかについて、彼なりの説明をしている。


すごくFlynnの主張を簡単に言ってしまうと、IQ測定というのは、科学的な世界観の普及にともなって、ちょうど、マシンガンがライフルよりも殺人兵器として効率的なのと同じように、「科学マインドを持つことによって、上昇してきたのだという。生活的な説明が科学的な説明にとってかわられたとだという。僕自身の言葉で言えば、ちょうど、氷が水に相転移したようなものなのだとも言えるだろう。


彼は、非常に左翼的なオプティミズムを持って、今後もそういった「心理兵器」の性能は上がっていき、基底的な脳生理学に変化はなくても、IQは上昇して、もっと相手を思いやる、戦争のない世界が来るのではないか? という。


なるほど、そういう可能性もあるだろう。19世紀に支配的であった好戦的な政治演説は鳴りを潜め、現在では平和主義が主流だ。(これはPinkerも指摘している。)


IQスコアの上昇(いわゆるFlynn effect)は先進国では止まったというのが定説だが、今後も上昇していく可能性は、必ずしもないわけではないし、民主主義、法の支配、その他ももっと一般化していく可能性もあるのかもしれない。


どこまでも無限に人間の共感能力などが上昇するというのは抽象的にはあってもいいが、僕には信じられないというのが事実だ。西洋諸国以外には、実力による支配が圧倒的な人間社会の主流であるし、今も民主主義が根付きつつあるようにも思われないからだ。


Flynn自身も認めているように、彼の意見はあまりに楽観主義的だ。確かに氷から水への相転移は起こったのだろうが、同じような相転移が無限に繰り返されていくとはどうしても思われないし、現に20世紀全体を通じての教育活動にもかかわらず、西洋世界以外ではほとんど民主主義が根付いていないのは、どう説明されるのか? さらに、それがPISAなどのIQ指標と密接に関連しているのはどうかんがるのか? 僕には、やはり日和見主義的な見解としか思われない。




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