これまで何人もの生物学者が、「なぜヒトのホモセクシュラルがこれほど広範に存在しているのか?」という問いについて考察してきた。
例えば、ウィルソンは、自分の生殖ではなく、甥や姪の世話をするのではないかという真社会性に近い仮説を述べていたと記憶している。他にも、男同士の同盟を強めるという説があったり、兄や姉が母親の子宮その他に残した細胞などによる、弟や妹の発生過程に対する不妊化干渉なのではないか、とか、いろいろな説があった。
しかし、多くの説は、ホモセクシュアリティが「適応」の結果である、と考える傾向があったことは間違いない。なにしろ、推定で5%から10%に上る割合の男性が、男にしか興味が無いというのだ。それなら、何かの適応価がなければ、広く長く存在するはずがない。
なお、テューリングもケインズも、あるいは昔でもプラトンがゲイであったことからすると、相当の頻度であることは間違いない。
さてしかし、この説は挑戦されている。
http://evoandproud.blogspot.jp/2009/02/origins-of-male-homosexuality-germ.html
ゲイは自分の生殖を犠牲にして、甥や姪の世話など実際にしていないし、もちろんその適応度を4倍にしてなどいるはずもない。同じように、きょうだいの適応度を2倍にする、あるいはイトコの適応度を8倍にするようなこともしていない。
僕にもゲイの知人・友人が複数いたが、親族への愛着が特段に強いというわけではなかったし、ゲイの実態からしても、この真社会性説には無理がある。
そこで一から考えなおして、同性愛というのは、異議のある適応などではなく、何らかの病気の結果であるとも考えられる。ポリオや結核、コレラに罹患した患者の、病後の変化が有益なものであると考えるのは、そもそもバカげている。同じように、ホモになるような結果を誘発する、何らかの(あるいは未知の)病原体があると考えるのだ。
僕もこの説を知ってから、そう考える方がはるかに合理的のように思われてきた。
これはちょうど、schizophreniaの存在理由が「創造性」を高める遺伝子のホモ結合なのでは?、などと言われてきたのと同じだ。最近は、どうやら実はインフルエンザや、その他の何らかの感染症による病気の結果に違いない、という説に挑戦されている。(興味のある人は、ちょっと英文サイトを調べてみて下さい。)
ゲイの遺伝率は0.3−0.5ほどだったとおもうが、なるほど、これが病原体への罹患確率、and/or その後の発生・発達への影響率をあらわしているという風に解釈すれば、つじつまが合うのだ。
グールドは適応万能論に対して常に警鐘を鳴らしていたが、ゲイの存在理由については彼が正しかったのだろう。
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