kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

『現代の貧困』

 著者は東大で法哲学を教える井上達夫氏です。

 論壇に登場する人物らしく文体が瀟洒であり、流麗な感じで読みやすいのがいい点だと思います。内容的なことでは、著者は「リベラリズム」というものを提唱するのですが、その内容としては古典的なリベラリズムを意味しており、現代的な用語でいうならむしろリバタリアンに近いものだと考えられるでしょう。とはいえ、その僕自身が日本の思想家に明るくないためもあり、内容ははっきりしていないように思います。あえていうなら、日本社会に潜む 同質性への要求(それが現代の貧困であるとされる)に対する批判とでもいうべきものが核心となるのでしょうか。

 もう一つ重要な点は、著者が天皇制を否定していることです。それも民主主義原理からではなく、むしろ天皇個人の人権の尊重の観点からです。これについては僕も同感するところが大です。現代の日本人は天皇制に対しては概して肯定的であり、おそらく9割以上がその制度の維持に賛成していると思われます。とするなら 民主主義原理からいえば、天皇制は維持されるべきでしょう。

 しかし個人主義自由主義の原理からいえば、天皇個人の人権は著しく制限されています。婚姻に関しても他人の承諾を必要とし、職業選択の自由も、移転の自由もありません。これらは法的な問題ですが、現実にも彼らのプライバシーは不必要に抑圧されていると考えるのは僕だけではないでしょう。

 リバタリアンは当然ながら現行の天皇制に反対するはずですが、まさに作家の笠井潔が主張しているように、皇室は宗教としての神道の頭領として日本社会に根付いているのであるから、それを国家制度に無理矢理組み込む必要もないでしょう。それは反天皇制を掲げる部落解放主義者にとっても、皇室の神格化を望む天皇主義者にとっても望ましいものなのです。

 話が脱線しましたが、井上氏には今後ますますの活躍を期待したいものです。それがリベラリズムと銘打たれていても、リバタリアニズムであっても、日本社会の異質性への肯定主義はもう少しその支持者が多くなくてはならないように思われます。