こんにちは.
11月の終わりに出版予定の「通貨,銀行信用,経済循環」を校正しています.それで思い出したことを一つ.
よく聞く言葉に「銀行破綻」というものがあります.銀行は「破産」するのではなくて「破綻」するのです.破綻という概念は,ある種のシステムの破綻(ほころび)ということなので,特定の企業に使われることはありません.(例えば,「シャープが破綻」ではなくて,「シャープが倒産」と使われています.)
これはつまり,銀行業そのものが特殊な存在であって,通常の企業とは異なって経済全体と直接的に関連しているという感覚を表しています.「金融は経済の血液循環である」とも言われることと同じなのでしょう.ここには,ある種の特異的=特権な位置づけがあるわけです.
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同じような言葉に,「権益」というものがあります.「三菱商事,豪州鉄鉱石の権益を獲得」みたいな感じで,よく新聞などで使われています.さて,ところで,なんで「権利」ではなくて,「権益」?? 「権益」とは石油,石炭,鉄鉱石,銅鉱石,などの,(直感的に最重要な)資源産業に関係した用語です.
つまり権益という言葉自体が,何か「国家の存立にとって,不可欠な権利」というニュアンスを持っているわけです.なんでそんな使い分けをすることで,誤った認識を広めるんだろう? 「権益」という日本語は,すべてより平明で現実に即した「権利」で置き換えるべきです.
これらの政治用語を使うこと自体が,ある種の産業に特権を与える感覚的な理由を正当化しています.銀行がもし,顧客の預金をローンに流用するという特権を許されていなければ,個別銀行は「破綻」ではなくて,単なる「破産」になります.
というわけで,(現実には難しすぎることですが)銀行には「預金」を預かった金銭として,その全額の完全な保管義務を要請すべきです.そうすることで,「銀行破綻」という言葉は必要なくなり,「銀行の倒産」,「銀行の破産」という常識的な表現が使われるようになるはずでしょう.
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