こんにちは。
ちょっとした理由から、クリストファー・ボームの「モラルの起源」を読んでみた。ボームは人類学者で、本については以前から聞いたことがあったが、読んだことがなかった。
これは微妙な本だ。
要するに、「専制的なチンプと違って、ヒトは次第に良心という心理機構を持つようになり、それは狩猟採集民の平等につながった」という感じの内容。これはこれで疑いないことだと思う。
僕がまったく納得できなかったのは、こうした平等を支える心理機構がAMHになった25万年前くらいに進化したのではないかという憶測。そんなバカな! おそらくエレクトゥスが平地に進出して、それなりの動物を狩るようになり、同時に急速に脳を巨大化していったのだから、それに伴っていたと考えるべきだ。ハンドアックスも使うようになっているので、平等の暴力的な裏付けも成立している。
また、狩猟採集民は「平等」ではない! 肉を分ける際には確かに平等的な側面があるが、首長は多くの妻を持ち、圧倒的な適応度を謳歌している。それは現代社会以上であり。見かけと違って、まったくもって「平等社会」などではないのに、そういう部分をまったく無視している。おそらくボーム本人が平等主義車なのだということがよく分かる。
なお、この本を読むならランガムの一連の著作を読む方が、ずっと知的にスリリングだし楽しい。自己家畜化の過程が(心理状態という憶測ではなくて)はるかに形質の変化や比較動物学的な知識をもって詳細に語られているからだ。
この本を褒めるなら、人類学的な記述がひじょうに多いことだ。クン族その他の詳細な心理について大幅な紙幅を割いて引用している。僕には面白くない内容だが、あるいは人類学に興味がある人には魅力になるかもしれない。
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