こんにちは。
多分この20年ほどはほとんど社会学者の本は読まなくなった。社会学の扱っている社会現象の多くがephemeralという感じで、あまりにその場の雰囲気のようなものを文学的に表現しているだけのように思われるから。
友人のススメで久しぶりに、阪大の社会学者吉川徹さんの本を読んでみた。吉川さんは2015年に行われた2つの大規模な社会学調査をもとに、この時代を読み解いている。
この本では、今年で30歳くらいから65歳くらいまでの成人(ポスト団塊の世代)を8分割して、学者らしい筆致で丁寧に議論している。若年、壮年、男性、女性、大卒、非大卒、の2の3乗の8通り。結論としては、壮年大卒男性が多くの果実を得ているのに対して、若年非大卒男性(LEGs)は
- 政治活動から切り離され、
- 不安定な仕事に就いて、社会のバッファーとなり、
- この20年間に次第に賃金も社会的な地位も低下し、
- 結婚もできなくなってきた
という。また、大卒・非大卒同士の結婚(assortative mating)は日本でも7割を越えていると報告している。
さて、若年非大卒の男性は、トラック運転手や自動車整備、ガテン系の労働者として、日本の社会を地道に支えているのに、ほとんど評価もされず、各種の政策の恩恵にも与れていない。もっと彼らに目を向けて、分断を解消すべきだと。
と、これらについてはなるほど、そうだろうという感想。実際、これらの現象はアメリカでもEUでもおそらく同時的に進行している。またマレーによる『階級断絶国家、アメリカ』での分析でも、アメリカの白人の中でさえ同じことが起こっている。
この本でマレーは、大卒・非大卒という分断は個人としての知能の違いを反映しており、それは生物学的にやむを得ないといった主張を展開している。もちろん、吉川さんは日本人なので、大卒・非大卒の、究極的な原因には触れていない。
リバタリアンとして興味深いのは、
1.政治家も官僚も「大卒」が望ましいので、学費無償ということを言うが、非大卒では子供に大学教育を望むのは半数に過ぎない。大学を無償にすれば、非大卒を望む人から見ると、ただ税金負担が増えるだけ。
2.タバコ税は非大卒が多くを負担する特殊な税である。もともと所得の低い彼らからの搾取である。
という観察+主張。 実にそのとおり。阪大の教授が「非大卒の価値観や生活を守れ」というなんて、実に正義にかなっているし、潔くて素晴らしい。こういう態度は大切なものだ。
余談:吉川さんは読者に対して「あなたが過去1週間に話した非大卒の人の人数を数えてほしい」と言う。この手の話は、ボクも他の本でよく読んでいるが、答えは言うまでもなくゼロなのだろう。
本を読む人は、必ず大学を出ている。同じ話だが、文春や新潮は当然、週刊ポストや週刊現代を読む人でさえ、必ず大学を出ている。おそらく活字というものから情報を得る人は、すでに知的に恵まれているのだろう。
もちろん、このサイトを読む人は全員必ず大学を出ているだろう。抽象的には、知的であるにもかかわらず、何らか(経済的か)の理由などで大学進学しなかった人というのも考えられるが、実際にはボクは出会ったことがない。。。
友人の1人は親の所得から学費が出せなったという話だが、大学時代には奨学金でボクよりもリッチな生活をしていた!! ウーン、難しいな、この時代の教育費無償とは、、、
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