こんにちは.
前述したように,2013年からの異次元緩和が始まる前,マネタリーベースは120兆円でしたが,今年7月には400兆円を超えているところからすると,すでに3倍以上のインフレ・ポテンシャルがマグマのように溜まっているはずです.とはいえ,マネタリーベースに銀行乗数をかけることでマネーサプライになります.このマネーサプライはここ25年の間に1.5倍ほどにしかなっていません.おまけに,異次元緩和とはほとんど無関係に,一定率でしか増加していないのです.よほど有望な融資・投資先が見つからないということなのでしょう.
それにしても,インフレ期待がここ3年をとっても1%をゆうに下回っているのはフシギです.マネーサプライが数%以上で増加しているのに,10年ものの国債のBEIを見ると0.5%ほどなのです.少なくとも債券ディーラーたちが,今後10年の平均的なインフレ率が0.5%ほどだと考えているのは間違いありません.
これは大きな謎です.僕が大学時代にサムエルソン(今はサミュエルソンという表記がふつうのようです)を読んだ時に,すでに貨幣数量説はマネタリズムの標準公理になっていました.どの程度でマネーサプライのすべてがインフレとなるのか? これは大きな謎ですが,もっと謎なのは,メジャーなマクロ経済学者たちが,それを問題にさえしていないことの方です.
価格革命は200年以上かけて,ヨーロッパにインフレをもたらしました.あるいは元禄時代の改鋳でも,数年から数十年はインフレが続いたようです.そうすると貨幣数量説が成り立つ「長期」という概念は,異次元緩和から3年の現在ではなく,あと数年から(あるいは)数十年というスパンであり得るのかもしれません.
これが物理学とかであれば,公理系の破れというのは大問題になると思いますが,残念ながら,やはり経済学はソフト・サイエンスだということなのでしょう.
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