- 作者: デービッドアトキンソン
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2015/06/05
- メディア: 単行本
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こんにちは.友人が薦めてくれたので,読んでみました.著者は,日本の伝統工芸品を修理する小西工芸の社長をしているイギリス人です.日本にファイナンシャル・アナリストとして働くために来て,その後は東京から京都へと転職し,在日25年.
この本は大変に興味深い!! 要点は何個かあって,
1.「おもてなし」は観光大国にはあまり重要ではない.誰も,そんなものを体験しに何十万円も支払って,1週間以上を過ごしたくないからだ.それは刺し身のツマであって,刺し身には成り得ない.この点,日本人とマスコミはイタい勘違いをしている.
例えば,この点で一例として指摘されているのは,日本では交通機関にクレジットカードでは乗れないことです.実際JRやメトロの切符売り場ではクレジットカードが使えないのです.殆どの寺社仏閣の拝観・参拝料を始め,美術館の入場料その他にもクレジットカードが使えない場所はいたるところにあります.
僕は去年,今年とイギリスに一週間行ったときまったくポンドを持って行かなかったし,2年前のアメリカでもホテルのチップ以外(3ドル)すべてがクレジットカードで決済できました(なので,むか〜しに所持していたドル札を持って行っただけで十分でした).どんなに小さな買い物でも,すべてクレジットカードで決済できるのは,現代社会の常識です.
実際のところ,両替というのは金がかかり面倒な行為だし,事前にどれだけ両替しておくべきなのかも,外国人にはなかなか想像できないものです.また銀行のATMなどは国際カードに対応していないため,現金を引き下ろすのも日本の街では容易ではありません.僕らのように日本で生活している人は,ソニーのフェリカとかでいいじゃないかと思ってしまいますが,少しだけ遊びに来ている人には,現金を覚えることも些細なことでも負担になります.著者は,こうした(物理的な利便性の提供こそが)本当のおもてなしなのであり,日本人は情緒的なものを重視し過ぎだといいますが,僕もそう思います.
2.観光にとって重要な要素は「気候」,「自然」,「文化」,「料理」, であり,日本はすべてをもっているが,外国人対応がほとんどないため,寺社仏閣その他を訪れても,よく理解できない.ルーブルのように各国語に対応して,音声,有人などのガイドをもっと高くても充実すべき.
3.フランスは年間8200万人が訪れているのだから,日本も2000万人などを目指さず,8000万人を目指すべし.そのためには文化財をもっと手入れして,かつ外国人を丸一日楽しませるような仕掛け,パフォーマンスを充実させるべき.
4.日本には一泊数百万円,という超富豪クラスのホテルがほとんどない.またロング・ステイを楽しめるビーチ・リゾートもウィンター・リゾートもない.所得格差のほとんどない国内のマーケットではなくて,世界70億人から選ばれるような開発を目指すべき.
というような感じです.なるほど,奈良にシカを見に行っても,日本の昔の活動を再現するようなパフォーマンスがあれば,もっと楽しいだろうし,子どもにも古都奈良の時代の衣装や活動がよくわかるだろう.だが,こうした風にそれぞれの寺社仏閣が変化するためには,大胆な経営感覚とこれまでの”常識”を破るリーダーシップが必要であるように思われます.そして,こうした新しい試み,横並びではないビジネスの発想は,日本人は弱いのだと感じました.なんなんでしょう? こういった感覚の差は.
USJが沖縄で海をテーマにしたパークを作るといいますが,考えてみると,沖縄はアジアから最も近く美しい海があるわけです.とするなら,ディズニーランドなどの大きさではなくて,ディズニーワールドを超えるようなものにしていってほしいものです.
最後に小さな悪口を言うなら,帯には「所得倍増計画」とありますが,そんなことは完全にムリ,あり得ないです.今,日本の観光産業のGDP比率は0.4%です.キセキが起こって,これが例えばもし仮に,観光産業のGDP比率が最高であるスペイン(4.8%)の2倍=10%になったとしても,GDPは10%しか増えません.
というわけで本書は良い本でした.批判をしているというよりも親日家であり,応援・叱咤激励・アドヴァイスしているという感じなのです.エールに応える必要を感じる一冊です.
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