kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

合理的投票者という神話

さて、小生が読んだのはThe myth of the rational voter です。
これはおととし発売されたものですが、
リバタリアンサイトで有名なGorge Mason の Bryan Caplan の著作です。


1、経済学者は「合理的」なエージェントを仮定して、
政治(投票)行動をモデル化するが、有権者は経済学を知らないし、
知らないほうが自分の世界観を信じられるために
気分がいいというdys-incentiveをもつ。


2、有権者のもつ反経済学的な通念は、
企業は金儲けのために価格を吊り上げているという反市場バイアス、
外国産のものの輸入に反対するという反外国バイアス、
職業の効率化によって失業する人がいるのは望ましくないという職の確保バイアス、
社会は悪い方向へ向かっているという悲観主義バイアス、
の4つが代表的である。


3、消費者としては一人一人が不合理なバイアスを持つ場合、その代償を支払うが、
有権者としては、その投票結果に影響を与えることはない(公共財)ため、
自分の気分を良くするが不合理であるような行動の代償を支払うことが必要がない、


4、ゆえに合理的期待をモットーにする現代の経済学には欠けたものがあり、
有権者の持つ
「rational irrationarilty」(合理的不合理)の概念を取り入れて分析をするべきだ、


というようにまとめられるかと思います。
際立つのは、アメリカにおける経済学者の知的伝統が当然ながらよくわかることです。
アメリカでも日本では「合理的期待」は多くの民間エコノミストからバカにされていますが、
そこのところを知的に生産的に解消しようとした試みだといえるでしょう。


僕はなるほどと思うのですが、どうでしょうか、こういった意見は
「大衆は経済学がわかっていない」という前提になるため、
一般受けが悪くなります。
が、Caplanが指摘しているように、
経済学という講義が大学で行われているということは、
やはり経済学者が信じることのほうが、
一般により真理に近づいているということでしょう。


あるいはこういった著作が日本でも出てもいいと思うのですが、
宇沢さんもそうであるように、学会の中心にはない日本の学界は
アメリカでの評価がまずあって、それに追随せざるを得ないので、
こういう(アメリカ経済)学会の主流を否定するような考えは難しそうです、ハハハ。


ところで、合理的期待をマクロモデルに入れると、
バブルも含めて面白いことは全部なくなってしまう、by my colleague
なので、どうやって緩めるべきかは今後の経済学の大問題でしょう。


最後にCaplanは、経済学者は、
政治的な決定よりも市場に任せたほうがいいことが多いことを
Bastiatのように楽しく説くべきだと主張していますが、
この点が彼のリバタリアンとしての行動原理なのでしょう。