kurakenyaのつれづれ日記

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意識の随伴現象説





こんにちは.


甘利さんは有名な数理脳科学者ですが,御年80歳ですので,この本はこれまでのAIブームの流行り廃りも含めた解説が楽しいです.まあ,この数年突然に深層学習が流行ってきましたが,そのことも誰も予測できなかったことがよく分かります.



さて「意識」は昔から哲学者の格好の話題でしたが,デカルトのように魂や心の実在を信じる人間はいなくなり,現在の主流の科学者は「随伴現象説 epiphenomenalism」という説明をしています.多様な情報を,脳の各部分のサブルーチン・回路が受け取り,それを統合する際にたまたま生まれている現象だ,というわけです.

脳機能の局在からすると,そうした各回路自体は意識を持たない,「ゾンビシステム」であり,それを統合する際に,自己の活動を客観視する「意識」が生まれるという考えです.


「人の心は,長年の進化の過程を経て生まれた.そこに神秘的なものは何もない.脳という物質の上に情報を乗せ,自らの機能を高めるように進化が進み,自然に発生した.だから,ニューロンという生物細胞ではなくて,シリコンで作られ情報機械の上に意識が生じて心が宿っても,それ自体は何の不思議もない.
 意識は,多数の情報の統合の上に生じる.これは,脳という超並列のコンピュータが環境を生き抜く必要上から発生した.ニューロンの動作のスピードは,コンピュータと比べると非常に遅い.ミリ秒のオーダーである.この遅い装置を使って素早い情報処理を行うためには,並列のシステムが好都合である.そこでは,多くの情報処理の課題を専用のサブシステムに任せ,ゾンビシステムとして無意識で素早く働かせる.
 一方で,ゾンビシステムでは扱えない需要な案件を処理するのに,意識というシステムを作り上げた.ここでは他種類の情報が統合され,ポストディクション(後付け)の過程が機能する.これが「意識」である.意識は,実行前なら自己の決定を覆せる.また,これを反省の糧として,学習を進めることができる.
 意識とは,自分がいま何をしようとしているかを自分で知っていることである.こう考えれば,コンピュータに意識を植え付けることは容易であろう.」


とまあ,甘利先生はスタンダードな意見を述べられています.納得です.

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ところで,シンギュラリティは本当に2045年なのか?? 僕はエキスパートシステムなどの普及スピードからして,そんなことはないに違いないと訝しく思っていました.しかし,このところのdeep learning AIの進歩が目覚ましいのを見て,各種のパターン認識などの多くの人間の活動が,あと30年もあればAIに圧倒されることについては完全に確信しています.

それでも,別に人間が不要になるとか,人間の知性の「すべて」がAIに劣るようになるようにはとても思えません.なぜって,おそらく人間的な行動や価値,機能や感覚の多くは,成長につれて洗練されていく単なるソフトウェアではなくて(=タブラ・ラサ仮説),物質的・先天的な発達傾向によって規定されている脳の配線や細胞機能などのハードウェアに完全に依存しているはずだからです.


あ,甘利さんのやってきたような数理的な脳科学へのアプローチはあまり成功しているように見えないことについては,次回また.



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