- 作者: 甘利俊一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/05/20
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (13件) を見る
こんにちは.
数理脳科学という学問は,ちょっとばかり経済学に似ています.それは個々のニューロン(人間)の活動を数理的に,熱力学のように丸めることで,全体の状態についての法則を導出しようとしているところです.
これはうまくいくのかは,先験的にははっきりしません.現実的には,現在流行りの深層学習では,そうしたマクロな法則は分からないが,実際に動かしてみたらうまく行ったということが報告されているだけです.
ついでに言えば,なぜ実際のヒトの脳には6層のコラム構造という中間的な階層が存在しているのか? (つまりなぜ5, 7, 8でも10でもないのか?) それぞれがどういった抽象性と関連しているのか? などなど,興味の付きない問題があります.
僕の視点では,ドブジャンスキーが言ったように,「生物学では進化の光を当てなければ何も意味をもたない」からです.どの脳回路にも,どの論理階層にも,認知様式にも,ヒトにいたるまでの進化的な意味があるはずで,それはどれだけか経路依存的なハードウェア設計になっているだろうからです.まあ当然ながら,今ははっきりとはしていませんが,,,
_
さて,ここでは,そうしたことを書くのはやめにして,ちょっと見つけた以下のような いわゆる文明批評の記述を引用することにします.
「人は賢いと同時に愚かであり,目先の利益に捕らわれる.思い込みも多い.いまの文明は.金銭への欲望が人を私拝しているように見える.このため,貧富の格差が限りなく拡大する.この状況に対処するのに,偏狭なナショナリズムと国家間の利害対立を煽り立てることで,矛盾から目をそらさせようという動きが目立つ.・・・
人が金銭に支配され,同時にネットを通じて情報に支配されるほうが,私には恐ろしい.人工知能はそのための有力な手段となることもありうる.文明崩壊の危機については,楽観はまったく許されない.これは技術の問題ではなくて,文明自体の問題である.個々の人間が自由に輝くことのできる社会を実現してほしい.このための努力こそが人を輝かせる.」
というような話が続きます.なるほどなぁー.
人間性の不可欠な部分には,科学的な探求などもありますが,同じほどに本質的な部分が拝金主義だと思うのですが,,,あるいは「個々の人間が自由に輝くこと」のなかには,他人の役に立って,そのために巨万の富を得るということも含まれているはずですし,科学者ではないほとんどの庶民にとっては,圧倒的にそういった目標のほうが普通なように思われます.
まあしかし,拝金主義を肯定することは,自分の人格の卑しさを露呈することと同じである(と少なくとも多くの人が感じる)ために,高潔な研究者にはあり得ないことがよく分かります.
ヒトは各自の発言や行動で,常に政治活動をしています.そういうふうにプログラムが組まれているのでしょう.そのために,「金儲けを追求するのは卑しい行為で,文明の危機だ」という素朴論につながらざるをえないことには,どこか残念な感が残ります.
_