kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

animal liberation revisited

今日は頭痛がしているので寝ようと思っていたところ、
旧友からブログを更新しろとの命令が来たので、
久しぶりに書いてみることにしてみよう。


暇に任せて、遠い昔に読んだ
Animal Liberation動物の解放」を再読した。
前は日本語の75年の初版で読んだのだが、
なんか調べてみると絶版になっている(こういうところが著作権の問題なのだ)、
これを機会に90年の英語(改訂)版を読んでみた。
ついでに最近の「The way we eat: why our food choices matter」も。


で、久しぶりに読んでみると、
あれ、こんなに左翼色が強かったっけ?
といった感じ。


1、動物への無駄な実験、極限的に不快な上に身動きも取れない食用動物の生育環境、
すでに動物を食べる必要のなくなった現代の栄養学、などは納得できる。
しかし、食肉産業を支配する大企業へのあからさまな嫌悪、
そうした企業からのロビーに支配される政治家と政治活動、
などは、資本主義という非人間性を否定するというテーマで、
非常に典型的な左翼がかっている。
なるほど「自然派」の左翼が喜びそうなトーンになっているのだ。


例えば、人々の願いと裏腹に、大企業によるロビー活動が政治を偏向させ、
飼育動物の劣悪な環境を改善することを否定しているというのは
まるで独善的な共産主義の発想だ。
大企業は多くの消費者の購買活動によって支持されているのであり、
だからこそロビー活動に金を使えるのだろう。
おそらく大衆は「知らされていない」のではなくて、
「知りたくない」のだ。
あるいは「知るほどの価値がない」と思っているといってもいい。
人々は確かにうまい肉を安く食いたいのであって、
その願いが食肉業者の過酷な飼育環境を生み出しているのだ。


2、僕はリバタリアンなので、
こういった状況を変えるのは法律という強制ではなくて、
人々の自発性からの肉食の放棄しかないと思う。
あるいは肉食の否定運動によるものだといってもいい。
もちろん、これは人々の無理だろうという意見ももっともだ。
これは政府活動を否定しようとするリバタリアニズムのもつ困難さと同じものだ。


3、で、もしある人が地球温暖化問題にシリアスであるなら、
プリウスに乗るより肉食を放棄したほうが効果が大きい。
また、食肉をやめれば、その飼料となる穀物が必要なくなるので、
世界の貧困は減少するともいう。
(僕はこれは経済学の視点からは、あまり現実的ではないと思う。
なぜなら、貧困問題とは最貧国の国民が国際貿易に値するものをつくれないことにあるので、
先進国でウシの飼料が要らなくなれば、その分だけコーンの生産量が減るだけに終わるだろうからだ。
とはいえ、農産物の限界生産価格は多少は下がるだろうから、少しは効果があるかもしれない。)


というわけで、温暖化問題を気にする人にとっても、南北の経済格差をなくしたい人にとっても、
植物由来の食物しか食べないというのは重要な活動であることになる。


4、さてシンガーの主張する、動物への「種差別」という概念は、
「男女差別」や「人種差別」というものの延長線上にある。
人間と同じように苦痛を感じるブタを
身動きのできない閉じ込めて苦痛を与えながら育てるのは許されない。
それはベンサムの主張する不快の低減という功利主義に反するというのである。


ブタやウシはおそらく人間と同じように苦しむだろうということには納得するし、
彼等への共感もあるが、これがサカナ、さらにエビやカニ
さらにはホタテガイやアワビにまでなると、
あるいは彼等も苦しむのだろうとは知的に納得するが、
それへの共感は(少なくとも僕は)格段に減ってしまう。
間違いなく、人間の共感とは、進化的に発達した心理機構であり、
表情もないサカナや、さらには無脊椎動物に対してはほとんど発揮されないのだろう。


こういった「原理主義」は、確かに哲学者には重要だし、僕もある程度納得するところがあるが、
おそらくはほとんどの普通の人にはまったく受けいれられないことは無理もない。
それでも、ヨーロッパ人、あるいはアメリカ人には相当数の原理主義的、
カルト的なヴィーガンがいるのは
ある意味でさすがに尊敬できると僕は感じている。


5、僕自身はといえば、去年会った友人と食事をして、
「おまえ、ブログで書いてることと違うじゃないか」
とバカにされたテイタラクで、人といるときはほとんど言行不一致を地でいく有様だ。
うちでも同じなので、マトモに実践するのは自分ひとりでいるときだけという情けなさである。


さて明日は、最近多い左翼の宗教的なGreen Movementに対して、
反対意見を述べるシルバーの近著の感想を書くつもり。