kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

高橋泰城さん

先日北大の高橋泰城さんにセミナーをしてもらった。
この人は科学の未来をつくってゆくであろう素晴らしい知性の人で、
その科学的知識の深さ、広さ、理解力には小生はただただ驚嘆してしまった。


内容がやや専門的になってしまうが、
ヒトの時間割引については、経済学モデルの常識としては指数割引きを使うのだが、
これはStrotzという学者が1956年だったかに、
この関数形を使うと、時間的に矛盾した意思決定をしないですむという論文を書いたことに始まる。
モデルも作りやすいので、経済学ではひじょうに一般化している。


しかし、実際の人間の主観割引はhyperbolicと呼ばれる関数であり、
これはラットやハトなどでも確かめられているから、おそらくは普遍的であることに間違いない。
Ainslieという学者だったかが、1975年あたりから主張していて、
確か近著である『誘惑される意志』というのもあるはずだ。


高橋さんは、実は人間の時間の長さの感覚自体がWeber-Fechner law という
対数変換を経ている、と主張しているのである。
これは人間の光の光度、音の大きさ、高さ、重さなどの知覚が対数的に認知されているというのと同じで
時間もまた長さの対数が認知される長さになるという。
ちなみに、このような知覚システムの利点として考えられているのは、
10の10乗にも及ぶ大きな変化を1から10の変化に置き換えて認識できることだ。


さて、これ以上詳しい話は面白くないと思うので、本題に入ると、
高橋さんの研究では、ヒトの時間割引は、
長時間においては自分の場合よりも他人の場合の方が小さいが、
反対に、短時間においては他人についての方がはるかに大きくなっているという。


これは彼自身が指摘しているように、
Libertarian Paternalism を否定することにつながる。
なぜなら、自分自身が不合理であって、動学的に不整合であっても、
他人である政府はもっと動学的な不整合性が強いからである。


高橋さん自身は、「これは他人のことの方がお気楽に考えるため、
より不合理性が強くなるからだろう」と示唆している。
というわけで、政府のパターナリムがいいというのは、
やはりlegendにすぎないということが確信でき、ますます楽しい話であった。