kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

悪人が上に立つ

 

僕が「??」と感じた点は、要するに、本書の内容が完全に「政治的に正しい」ばかりを擁護していることにある。政治的に正しい主張には多様なものがある。

 

 

1.「身長の高さは過去のリーダーシップ・身体能力のシグナルとしては意味があったが、現代の政治家としては無意味だ」というもの。これは違う。実際には、身長の高さは遺伝的な身体能力だけでなく、知的能力も、そして発達・発生の正確さ=ストレス耐性も同時に表している。これらは現代の政治家として、また個人の魅力としても実際に有効な資質だろう。

 

2.女性が政治リーダーになると、民主度が高まり、平等・再分配政策が進められる。これは事実だが、同時にそれは大きな介入的政府を生み出し、人々の自由を奪ってきた。社会の繁栄にとってどちらが望ましいのかは価値観による。僕としては、みんなで貧しく平等な社会に住むより、不平等を含んではいても平均所得が成長していく社会に住みたい。これは価値観の問題なので、別に貧しい平等を目指すのもありではある。

 

3.フォーチュン500を使って男性のリーダーばかりを嘆くのは政治的に正しいし、おそらくは確かにアメリカ社会の人種差別を反映しているに違いない。だが、現代の多くのテック企業の著名な創業者たちはそもそも機械オタクで、そうした興味は男性に圧倒的に顕在化している。潜在的な能力はさておき、そもそも女性は世界を変えるようなプログラムや機械・科学技術に興味を持つことが少ないのだ。そうした現実の心理的な性差を無視して「アメリカの大企業は男ばかりに率いられている」というのは、あまりにお気楽だ。

 

というわけで、なんか気になるところもあるが、野心的な大著であることはまちがいない。あまりに情報量が多いこと、内容がてんこ盛りで詰め込み過ぎであるとも感じたが、読み応えのある本だ。一読の価値があるので、おすすめしたい。