kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

この20年の貨幣数量説

みなさん,こんにちは.


7講は,主に貨幣数量説についてです.貨幣量が2倍に慣れば,物価が2倍になるという単純な話なのですが,なぜかこれを信じない人がいるのはなぜでしょうか? 


1つの重要な理由には,貨幣数量説は明らかに短期的には成り立っていないという観察事実があります.



というわけで,日銀の通貨供給量M3(彼らはマネーストックという言葉を使う)を見ても,過去15年間に通貨供給は1000兆円から1300兆円まで増加しているからには,もし貨幣数量説が成り立っているなら,少なくとも30%ほどのインフレが起こっているはずです.明らかに,デフレが起こってきたことからすると,通貨の流通速度が低下してきていると考える他はありません.


上の日銀のグラフは2002年で切れているのですが,統計をテキトウに継ぎ接ぎして,もっと遡ることもできます.それを見ても,1993年くらいからは一貫してM3に当たる,マネタリーベースの通貨供給は1.5倍を超えて増加しています.日本のGDPがこの間,ほとんど一定であるからには,最近20年以上も続くデフレというのは,いかにも不思議です.明らかに貨幣数量説は成り立っていません.


おまけに,期待インフレ率(BEIと呼ばれる)もまた1%をはるかに下回っています.期待インフレ率は,インフレ調整された国債と,通常国債金利差から推定されますが,少なくとも債券ディーラーたちは,近くインフレが起こるとはまったく予想していないのです.実際M3の2−3%をはるかにこえる増加にもかかわらず,期待インフレが低いのは,経済学にとっては完全なナゾです.もちろん黒田総裁には予測できなかったでしょう.



というか,これはそもそも黒田さんという程度の人の問題ではなくて,過去のどの偉大な経済学者にも予測不可能だったことだと言えます.もちろんミルトン・フリードマンや,あるいはもっと最近のポール・クルーグマンを含むすべてのケインズ主義者にも,こうした現象は予測できないものでした.


ここから何が結論できるのか?  バカらしくて面白くもない命題ですが,「経済は我々の現存の知識や理解を超えて複雑であり,何かを予測したり,いわんやコントロールできる状態にはない」ということなのでしょう.


通貨供給量からではないなら,インフレ予測が実際にはどのように形成されるか,という問題はあまりに重要であるのですが,現在の経済学はその答を持っていないし,もっと根本的な行動科学者も含めて,我々の経済についての知識は,未だに中世の錬金術瀉血療法の医学程度のものなのでしょう.



_
















_