kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

Silicon valley v.s. Route 128

Boldrin and Levine の Against Intellectual Property を読んだのは、前にも書いた。僕はアマゾンで本を買ったが、オンラインでも無料で公開されているので、皆さんも興味があったら読んでください。

http://www.micheleboldrin.com/research/aim.html


僕はこの本を読んで、これまでには知らなかった、もっと具体的なアンチ知財的な事実をいくつも知ることができて本当に有益だったし、さらに功利主義的に知財反対の確信を深めた。


シリコンバレーがグーグルやアップルを生み出したことは、誰でも知っている。その理由として、よく挙げられるのが、スタンフォード大学の存在だ。つまり、スタンフォードには優秀な人材が揃っていて、それがベンチャーキャピタルと融合した結果、大規模な産業が生まれたのだ、と。

これについて、僕は疑ったことはほとんどなかったが、ではなぜMITとハーヴァードのあるボストンのroute 128 では、初期のDECやSunなど、いくつかの成功例があるにもかかわらず、シリコンバレーにはならなかったのか、については、相変わらず不明なままだ。


よくよく考えれば、GNUプロジェクトのカリスマRichard Stallman もMIT出身だし、スタンフォードが長い間わたってMITよりもはるかに優れた人材を排出してきたという可能性は低いように思われる。


では、何が違いを生んだのか?

カリフォルニア州の法律では、労働者が敵対的な企業に転職することは完全に合法的で、その禁止条項は法律的に無効となる。そして、同業他社への転職は、よく知られているように実際にシリコンゔバレーでは今も頻繁に起こっている。対して、マサチューセッツ州法では、労働契約条項の中に、労働者は同業他社に(典型的には1、2年の間は)転職することはできない、とあることが普通で、その条項は実際に法的に有効であった。


こうした転職禁止条項の有効・無効の差が、長い間に蓄積して、世界に名だたるシリコンバレーとRoute 128 の違いを生み出したのだ。この違いが重要だったという原論文はこれ。

http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=124508


抽象的には、ボストンとカリフォルニアの文化の違いや、あるいはジョブスやページなどの天才の偶然的な存在、とかいろいろ議論できるかもしれない。しかし、Hewlett-Packard とDECやSunの現在の違いが、法律に依存しているといたという可能性は高いだろう。

つまるところ、パテントが多すぎるコンピュータ業界では、転職が知的なフローを高め、知識が共有されて、さらなるアイデア創発する。知識の流れが止まれば、それだけ会社は守られて繁栄するように感じるが、長期的には停滞に陥って、会社も傾き、地域の産業も廃れていくというわけなのだ。

音楽や絵画などの芸術であれ、学問であれ、あるいは機関車製造業であれ、知的な活動は、知識の交流から生まれるというのは、興味深い。秘匿とパテントによって保護されれば、パテント所持者の富が短期的に増えることはあるかもしれないが、長期的には皆がより低い生産性しか享受できない。

明日は、もう少し、ワットのパテントによって蒸気機関の進歩がやたらと遅れたことについて書こう。