amazon kindleで最初に読んだのはThe 10000 years of explosion。
この本には正直驚いた。
何がって、これまでの人類の歴史を集団の遺伝的な変化から説明するという、
僕の長年の夢に、すでに突入して、いくつもの興味深い仮説を提示していること。
ちなみに第二著者のHenry Harpending はユタ大学の(社会科学に失望して遺伝学者となったという)
有名な集団遺伝学者であり、およそを聞いていためこの本を読み始めたというわけだ。
これまでの社会科学としての歴史というのは、
「遺伝的には同質である人間集団に起こる文化の変化や、各種の偉人の活躍」を意味していたわけだ。
が、この本はそういった純文化的な説明を満足できないものとして、
多くの歴史上の重要な事件が、むしろ人類集団の遺伝的な変化によって引き起こされたとする。
1、4万年前から人類の芸術や道具が急速に進歩したのはネアンデルタール人との交雑によって
彼らの(おそらくは創造的な)遺伝子を取り入れたからであるという仮説の提示と、
そのいくばくかの証拠。
2、8千年前から広がった印欧語族は、
もともとコーカサス地方に発生した乳糖耐性のもつ集団が、
繁殖において圧倒的に有利になったことによって、
ユーラシア西部地域の支配階層となったことによる可能性が強いこと。
3、アメリカ・インディアンはコンキスタドーレスに征服されたのは、
彼らが天然痘などの病原菌体制が弱かったためであるが、
それは、彼らがアメリカ大陸における放散の歴史において
その耐性遺伝子を持つ必要がなかったため。
4、アジア人の順法性や学術活動への努力の性向は、
そういった個性が農耕の普及によって自然選択されたからであり、
遺伝的に東アジア人はnovelty seekingが弱く(D4DRなど)、
興味深いことに日本以上に中国では弱い
(僕の感じるところ、これは科挙のせいではないか!?)。
5、ヨーロッパユダヤ人(アシュケナージ)は
ひときわIQが高いこと(およそ0.5-0.75sd)がよく知られているが、
これは彼らが中世に自民族内での婚姻だけが認められ、
同時に高利貸しなどの知的職業に従事することしか許されていなかったため、
遺伝的な素養として神経細胞の活性を高める遺伝子頻度が高くなったためである。
その証拠に彼らに特有のテイ・サックス秒などの遺伝病は
ほとんどが神経細胞の成長や活性に関連する遺伝子病である。
とまあ、こういった感じで論旨は展開するのだが、
なんというか、これまで文化という人間集団の行動様式の変化のみで説明されてきた事実が、
このように遺伝子の頻度変化を主なドライブとしているのだ。
こういった風と考えるのは、大学以来の僕のライフワークであったが、
ここまで徹底的に説明されると、あまり付け加えることもない。
もちろん、いくつか納得できない点もあるが、
おおまかな方向性として反対することはまったくない。
歴史に限らず、すべての社会科学における違いなどは、
学習が可能な純粋な文化的な影響と、
不可能な遺伝的な部分からの影響にdecomposeされるべきだだろう。
本書で取り扱われる史実はヨーロッパ中心ではあるものの、
アッシリア王国やローマ帝国、ササン朝ペルシア、スキタイ文化など、
数多くの歴史的な事実と、
青い目の遺伝子の拡散や乳糖耐性遺伝子の拡散などを交差させて論じるのは
たいへんに目新しく、かつ僕の主観では、
間違いなく今後の真の社会科学の方法を予感させてくれる。
近いうちにぜひとも翻訳の企画をどこかに提案してみたいと思うのだが、
どこかの出版社で興味を持つ人はいらっしゃいませんか?