- 作者: ベンゴールドエイカー,梶山あゆみ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2011/05/19
- メディア: 単行本
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皆さん こんにちは.
週末にベン・ゴールドエイカーの「デタラメ健康科学」を読んでみました.これは3年ほど前に友人から薦められて読んだのですが,興味が湧いたので,再読したという次第です.
サイモン・シンの冷めた代替医療批判とは異なり,コールドエイカーははるかに辛辣に民間療法,代替医療,医療産業,マスコミを批判します.ここで重要なのは,おそらく医療産業と,マスコミでしょう.
製薬会社がスポンサーを務める多くの臨床研究では,効果があれば大々的に発表されるが,効果がないような場合には,まったく発表しなかったり,あるいはマイナージャーナルに載せたりということになります.こうした実態は一般にpublication bias と呼ばれ,メタ分析ではそうしたことが実際に起こっていることが,これまで数多く検討・報告されてきました.
これは科学界全体に蔓延る深刻な問題で,僕自身も過去にテストステロンとリスク・テイクについてうまくいかなかった研究はいくつかのジャーナルにリジェクトされて,公表できなくなったのでよく分かるつもりです.あまり興味深くない結果は誰も読みたくないということになるのでしょう.
ついでゴールドエイカーはマスコミの持つ,代替医療への偏向についても痛烈に批判しています.面白い記事は載せるが,代替医療を否定するような,重要だが,耳目を集めないような記事は載せない.それは記者が科学というものを理解していないこと,そしてまた商業主義にすぎること,であると.
こうした意見はまったくもっともなもので全面的に納得できますが,しかしマスコミ(BBC)・新聞批判には疑問が残ります.なんといっても,結局新聞社やテレビは大衆からの支持がなければ営業していけないわけで,その点は学術ジャーナルとはそもそも立ち位置が違います.科学的に正しいがまったくウケない記事を載せてばかりいて果たして人びとから支持されるものなのか? 最悪の場合,もっと悪質なメディアに取って代わられるのではないのか? という疑問が残ります.
結局は一人ひとりの人間は,聞きたいことを肯定してくれるような記事を好む傾向があり(心理学で言う肯定バイアス),そうした傾向を振り払ってまで,懐疑主義を貫ける人はほとんどいないのが現実です.これはISのテロ祭りと同じように,人間というものの本性に突きつけられた難問であるように思われてしまいます.
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