ここ数年、気が向いた時には研究室を整理して、2度と読みそうもない本を捨てている。今日はまた、何冊か処分したが、なかに竹内久美子さんの10年移譲前の文庫本があって、なかをパラパラとめくると、
「ハゲは、自分の性的な魅力を減少させて、すでに養育中の子どもに資源を集中させる適応である」
というような、彼女自身の仮説が述べてあった。ここでマジメに仮説として取り扱うのも気が引けるが、どうしてそれが納得できない仮説なのかについて、ヒトコト。
もし仮に、ハゲが本当に性的な魅力を下げ、子どもの養育を優先する、という戦略であるなら、ハゲという現象は、同時に親としての愛情を高める必然性がある。筋肉を増やし、攻撃性を高めるテストステロンによるとは考えにくい。むしろ、オキシトシンや、あるいはエストロゲンなどであるというのが、自然だろう。
しかし、ハゲを生み出しているのは、テストステロンであり、それに反応する細胞群だ。
だったら、むしろハゲは男性間の駆け引きに有利になるように、筋肉を増強し、同時に「より年上に見える」という戦略である、と考えたほうがはるかに整合的だろう。
また、自分の直接的な性的な魅力を下げてまで追求する適応度というのは、たいへんな大きさのものであるはずだ。個体の行動心理にも、同時的に大きな変化がなくては、とても補って有り余ることはないだろう。
結局、心理学でも、男性がハゲるとやさしくなる、という話は聞かないし、そうした実感もボク自身にもないのだ。むしろ反対だと示唆する研究もある
子供との添い寝で父親のTは減少する
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0041559
というわけで、ハゲ=性的魅力減少戦略、というのは、ありそうもない珍説で、やはり男性間の競争を有利にすすめる(そして結果として女性を手に入れる)という戦略だするのが、はるかに適切だろう。