日本の都市のなにが問題か (世界のなかの日本経済:不確実性を超えて)
- 作者: 山崎福寿
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2014/09/24
- メディア: 単行本
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5章 相続と介護
この章は、相続制度について。日本では小規模宅地の相続は、評価額で市価の70%になり、さらに200平方メートルまでは優遇されるので、高齢者は子供に遺産を残すために不動産の形をとることを望みます。
さらにこの不動産評価額は、バカらしいことにアパートを立てれば借家権の分だけ下がるので、川越あたりに行くと、やたらとアパートの乱立が起こっているわけです。
もちろんこれは非効率なのですが、これを言い換えるなら、相続節税の分だけ郊外のアパートが安く提供されているわけ。なので、一人暮らしの人にとっては政府から間接的な補助金が出ているのです。→ この単なる資源の移転が起こっていることは、郊外に一人暮らしの人にとっては、もちろんありがたいでしょう。
さて、金融資産はそれほど持っていないが、住宅を持つ高齢者について考えてみましょう。まあ、これは日本の場合、マジョリティと言って良いではないでしょうか。そういう高齢者から見ると、
- 住宅を売って金融資産にして、取り崩して生きるという選択肢。これには長生きリスクがあるために、躊躇されます。資金が尽きたら、アパートも借りられなくなってどこに住めばいいの? という心配ですね。なお、日本にはリバース・モーゲージが利用できても、それは不動産価格の50%程度という話なので、あまり利用は普及していません。
- 介護を子供に頼み、その代りに家を譲るという選択肢。これは経済学では、戦略的遺産動機と呼ばれています。介護と不動産を相対で交換するというものです。実際、データを見ると、高所得の高齢者は子供と同居していない傾向があります。親から見ても、裕福な場合には、子供との同居を望んでいないことがわかります。(あるいは、子供の所得も高いために、子供が親と同居する機会費用、介護する機会費用が高いのが原因かもしれないという疑問は残りますが、、、)
現実には、日本では2の選択肢ばかりが選ばれています。なので、不動産金融をもっと活性化すれば、子供の介護離職もなくなっていいんじゃないの、というのが山崎先生の主張です。なるほどスタンダードな経済学的説明だと思います。
また同じコンテクストですが、サ高住建設への政府からの各種の手厚い補助金も良いが、もっと高齢者の持つ土地資産の流動化を促進したほう良い。そのほうが、全体として生活水準は上がるだろうということも主張してあります。
う~~ん、この本の全体として言えば、マトモな経済学の提案です。あっちで変な規制をして、こっちで変な優遇税制をする。その結果がおかしいと言って、また別の奇天烈な法制度を作る。実に政治というものの性質が現れているとしか思えません。もっとスッキリやらないと、いたずらに法律実務家、つまり書類作成のアドバイスのための税理士や司法書士、紛争解決の弁護士ばかりが増えて、その分だけ人々の生活は貧しくなってしまうと痛感する内容でした。
でも、どうしてこういうマトモな意見が、ボクの大学時代の前から、もう40年以上も続いているのに、政治家・官僚・法実務家の誰も注目しないのだろうか?? こうしたことが一番不思議です。
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